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第20話 その妖精姫、本当は化け物じゃないですか?

last update publish date: 2026-07-17 15:30:04

「ご機嫌よう――」

驚愕する二人に白銀の妖精が微笑んでいた。

「――レーキ・ノモ様、ジョウジ・シキン様」

ウェルシェが綺麗なカーテシーを披露する。そこだけキラキラしいエフェクトが発生でもしているようだ。なんとも幻想的な美少女である。

そんな絶世の美姫に二人は惚けたように魅入ってしまった。

「人の想像力は意外と高くは飛べないもの。ですから実際に目に見える猛獣を恐れるのですわ」

だが、その愛らしい唇の間から出た言葉は現実的で、自分達の会話の真意を読んだ鋭い解答をウェルシェから投げかけられて二人は我に返った。

(誰だ、グロラッハ嬢を柔和な姫と噂したのは)

(これは見た目に騙されてはダメだ)

レーキとジョウジは目配せして頷き合った。

「これはウェルシェ嬢、我らのような爪弾き者に何の御用でしょう?」

「私どもはオーウェン殿下の不興を買った身ですので、関わるのは御身の為にはなりませんよ」

ウェルシェが何を目論んでいるのか分からず二人は警戒をしたが、ウェルシェはまったく意に介した様子もない。

「隆盛の者への媚びはすぐに忘れられ、苦境の者への援助はいつか我が身に返ってくると思いますの」

レーキとジョウジの背筋に冷たいものが走った。

「それが伏竜鳳雛ふくりょうほうすうなら尚更ですわ」

つまり、ウェルシェはレーキとジョウジに恩を最大限で売りたいと言っている。優秀な二人は当然それを正確に読み取った。

「私達を伏竜鳳雛とは畏れ入ります」

「ですが、それはウェルシェ嬢の買い被りですよ」

「学園きっての俊英と名高いレーキ様と、名高きシキン家の嫡男であるジョウジ様のお二人と親交を結びたいと思うのは少しも不思議ではありませんわ」

ウェルシェは人畜無害そうな令嬢にしか見えない。だが、ニコニコとした笑いの下に古竜ドラゴン鳳凰フェニックスよりも恐ろしいものが隠れている。そう二人には感じられた。

「そう言えば先程は面白いお話をされておられましたね」

二人はぎくりとした。

王家への反逆ともとられかねない話題をしていた自覚はある。どこまで聞かれていたか二人は冷汗を流した。

「オーウェン殿下が王者の資質だとか」

「え、ええ、早計なところがあっても、オーウェン殿下には決断力があります」

まだオーウェンに救いがあるとレーキは考えている。

「ご自分達を冷遇した主人への不満はないのですか?」

「私も未熟の身なれば、完全に思うところがないとは申せませんが、殿下はまだ十代なのです。軽々な判断は若気の至りと水に流せましょう」

「私もレーキの意見に賛成です。殿下には人を率いる王威が備わっております」

「さすがレーキ様とジョウジ様ですわ」

 二人の真摯な訴えにウェルシェは相槌を打った。

「ご自分の境遇よりも国を憂う正に忠臣の鑑。私もオーウェン殿下にはつつがなく王位を継いでいただきたいと思っておりますの」

「ですが、今の殿下は……」

「それに、私もレーキも殿下の機嫌を損ねてしまって」

今のオーウェンが王となれば国は乱れるだろう。だが、その時二人は政治まつりごとの中心から外されるのは目に見えている。国に献身的で優秀な二人はそれが残念でならない。

「だから、自分達には何もできないと仰いますの?」

ところが苦虫を嚙み潰したような顔で無念を訴える二人に、ウェルシェは鋭く切り込んできた。

「このまま全てを諦めるのでございますか?」

それは甘えるなと叱咤されているように二人には思えた。

「手をこまねいていれば苦しむのは力無き臣民なのです。我ら力ある貴族が最初から諦めて何もしないのは罪です」

「ですが、私もジョウジもオーウェン殿下に具申できる立場ではなくなっております」

「もう我々にはどうすれば良いか……」

「将来の国王たる者の側近だけが道ではありませんわ。むしろ、一歩引いた位置からの方が見えるもの、出来る事があるのではありませんの?」

二人はハッとウェルシェを見た。だが、ウェルシェはにこりと笑って一礼すると踵を返した。

「お二方にまだ国を正していく気概がおありなら、私の助けになってくださると嬉しいですわ」

それだけ言い残して振り返ることなくウェルシェは立ち去った――

「最後の言葉の意味は何だと思う?」

 残された二人はしばし無言であったが、その背中が見えなくなったところでジョウジが呟いた。

「おそらく俺達を自陣に勧誘しているんだろうな」

「やっぱりそうだよね……」

「俺は貴族の勢力争いには興味は無い」

「シキン家の者としても貴族の派閥に入るのは本意ではないよ」

 二人は国を良くしたいのであって、貴族の派閥争いには加わりたくはない。だから、国の中枢で手腕を振るいたかったのだ。

「だけどウェルシェ嬢の指摘通り僕らにできるのは外部から圧力を掛けるだけだ」

「ならば誰の下につくかが問題だな」

「戴くべき主人をきちんと見定める必要がありそうだね」 

「ジョウジは彼女をどう見た?」

「驚いたよ。どうやら僕らはまったくの見当違いをしていたようだね」

 ウェルシェは完全に周囲を欺いていたと二人にはもう分かっている。

「彼女には見識の深さ、洞察力、機に敏であり先見の明もある。何よりそれを包み隠す思慮深さ……」

「あれで本当にまだ十五歳なのか?」

「レーキはどうするつもりだい?」

 そう聞いたもののジョウジには既にその答えが分かっていた。

「このままくすぶるつもりはない。俺は彼女の口車に乗るつもりだ」

「それが僕らの家のみならず国の行く末にも一番いいだろうね」

 ジョウジはふっと笑った。

「それに、僕は次期王妃になる人物はイーリヤ嬢ではないような気がしてきたよ」

「奇遇だな。俺もそんな気がしていたところだ」

 二人には他の者とは違う未来の王国の体制が見えていた……

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